2012年12月31日
北海道大学大学院地球環境科学研究院 鈴木光次
2012年11月16日から11月23日かけて、本プロジェクトおよび東京大学大気海洋研究所共同利用の一環として、(独)海洋研究開発機構・学術研究船淡青丸(写真1)を利用し、「九州南部黒潮域における生物地球化学過程と低次生産構造の解明」に関する研究航海(KT-12-31)を実施しました。この航海には、本プロジェクトメンバーである、齊藤宏明(水研セ・東北水研)、岡崎雄二(水研セ・東北水研)、梅澤有(長崎大)、平田貴文(北大)、および鈴木が参加し、その他、杉江恒二(北大)、山口聖(長崎大)、Hongbin Liu(香港科技大/北大)、Shun Yan Cheung(香港科技大)、榎正憲(マリンワークジャパン)の計10名が参加しました(写真2)。
本航海は、最初の計画では、宮崎県都井岬から、種子島を挟み、奄美大島笠利崎までを結ぶTK観測線上で海洋観測を実施する予定でしたが、同海域のマグロ延縄漁との漁業調整により計画を変更し、鹿児島港を出港した後、トカラ列島の西側の6観測点において海洋調査を実施し、無事、鹿児島港に帰港しました(図1)。
本航海の主目的は、これまでに知見がほとんど得られていない九州南部の黒潮内側域、黒潮流軸付近、黒潮外側域における、1)微量栄養塩と溶存有機態窒素・リンの分布、2)細菌(窒素固定生物含む)、植物プランクトン、動物プランクトン、仔稚魚の量、組成および生産力、3)水中光学特性に関する相違点と類似点を把握することにありました。そこで、CTD観測(水温、塩分、クロロフィル蛍光の測定とボトル採水、写真3)、ネット(VMPS、MOHT、ニューストン)によるプランクトンと仔稚魚試料の採取(写真4、5、6、7)、後部甲板でのボトル培養実験(写真8)、光学観測(水中分光放射計、水中光吸収計、水中光散乱計、および天空光測定;写真9)を実施し、大変貴重な試料およびデータを採取することに成功しました。また、航行中、船底から汲み上げられた水深約5mの海水を利用し、微量栄養塩(硝酸塩+亜硝酸塩、およびリン酸塩;写真10)と植物プランクトンの光合成活性(写真11)を連続的に測定する試みを行い、九州沿岸から黒潮域にかけて、これらパラメーターの地理的勾配を初めて定量的に評価することができました。今後、質量分析計による精密同位体比測定、次世代DNAシーケンサーによる遺伝子解析等、最先端技術を用いて、試料の解析が行われる予定です。
<図1>
淡青丸KT-12-31次研究航海の観測点(青丸)と黒潮の流れ(燈色矢印)。
<写真1> 鹿児島港に停泊中の(独)海洋研究開発機構・学術研究船淡青丸。 |
<写真2> 鹿児島港に帰港後の集合写真。背景は桜島。 |
<写真3> CTD観測。各水深における水温、塩分、クロロフィル蛍光などのデータ採取およびボトル採水を行う。 |
<写真4> VMPSによる動物プランクトン試料の採取。 |
<写真5> MOHTによる仔稚魚の採取。 |
<写真6> ニューストンネットによる海洋表面に生息する生物(ニューストン)の採取。 |
<写真7> 黒潮流軸付近の観測点(St 3)の夜間に採取された仔稚魚など。 |
<写真8> ボトル培養実験の準備と水槽。 |
<写真9> 水中光吸収計による光学観測。 |
<写真10> 水中光吸収計による光学観測。 |
<写真11> 植物プランクトンの光合成活性測定装置(FRRF)。 |