SKED 我が国の魚類生産を支える黒潮生態系の変動機構の解明

The Study of Kuroshio Ecosystem Dynamics for Sustainable Fisheries

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白鳳丸調査航海KH11-10報告

齊藤宏明 鈴木光次

黒潮域生態系は北太平洋亜熱帯循環とその物理・化学環境に大きく影響されています。黒潮域生態系とその変動機構を理解するためには、北太平洋亜熱帯全域の理解が必要です。

私たちは独立行政法人海洋開発研究機構の調査船白鳳丸による調査航海KH11-10に参加し、炭素、窒素、リン等の生元素の分布形態や動態と低次生態系に関する調査を行いました。白鳳丸は全長100m、3991トンの日本を代表する学術調査船です。

SKEDからは水産総合研究センターの齊藤宏明と北海道大学の鈴木光次が 2011年12月1日から22日にかけて行われたレグ1(東京―ホノルル)に参加しました。白鳳丸における様々な調査風景および調査船での科学者の生活について紹介します。

白鳳丸航海KH11-10の観測点図。
Leg2では南太平洋での観測が行われました(SKEDからは東大・福田秀樹が乗船)。

出航

晴海ふ頭を出港。ホノルルへ向かうため、船首には星条旗を掲げます。

海洋観測開始

海洋観測の基本はCTD(電導度・水温・深度センサー)による海水中の水温・塩分の測定とニスキン採水器と呼ばれる採水ボトルによる海水の採取です。白鳳丸航海では水深5000m以上に達する太平洋海底近くまで、20層以上の水深から海水を採取しました。

海水濾過

採集された海水サンプルは様々なフィルターを用いて濾過します。フィルター上には海水中のプランクトンや懸濁物が集められ、その窒素、炭素、リン等の濃度を分析します。航海中、大量の海水サンプルを処理するために、私たちは長い長い時間、濾過器の前で過ごします。

海水濾過システム フィルター上に集められたプランクトンやデトライタス。植物プランクトンが緑色に見えます。小さな粒や小型の動物プランクトンやその糞粒です。

動物プランクトンの採集

海の生態系の主役は、プランクトンと呼ばれる、遊泳力が弱く水の流れるままに暮らしている生物です。動物プランクトンは体長0.1-10mm程の大きさの生物で、より小型の植物プランクトン等を餌にしています。魚の大好物で、動物プランクトンの密度や種組成の変化は、魚類資源の変動を引き起こすことがあります。

動物プランクトンを採集するにはプランクトンネットという、細かい目合いの網地をつけた採集具を海におろして巻き上げ、海水中の動物プランクトンを濾しとります。何枚ものネットを深さによって取り換えながら曳網する層別採集具を使うと(下の図)、深さ別にその分布を明らかにすることができます。

ツインネット(NORPAC型) 直径2mの大型のネット(ORIネット) 層別採集ネット(VMPSネット)。8枚の網地を深さによって取り換えながら巻き上げてプランクトンを採集します。6000mの深さから曳網することができます。

様々な動物プランクトン

プランクトンネットを曳くと様々な分類群に属する美しい動物プランクトンが採集されます。

カイアシ類は小型の甲殻類で、動物プランクトンで最も多いグループです。

Rhincalanus sp. Calanus jashinovi Labidocera acuta
Saphirina sp. Saphirina sp. Copilia mirabilis

カイアシ類の他にもさまざまな甲殻類動物プランクトンが分布します。イセエビの幼生も動物プランクトンとして暮らしています。

端脚類 エビの幼生 オオタルマワシ

動物プランクトンの中にはゼラチンのように体が透明な“ゼラチナスプンランクトン”と呼ばれる種類がいます。

クシクラゲの一種 ウミタル ヤムシの一種(Pterosagitta draco

動物プランクトンには海に浮かぶ貝の仲間もいます。クリオネは貝殻がなくなった貝の一種です。

翼足類   裸殻翼足目の一種
(北の海に分布するクリオネの仲間です)

青い海

西部亜熱帯太平洋は植物プランクトンの成長に必要な窒素やリン等の栄養塩がほとんどありません。硝酸塩およびリン酸塩濃度は共に<3nMですが、これは日本沿岸域の濃度の1/100から1/1000以下程に相当します。植物プランクトンが非常に低濃度でしか分布していないため、海の砂漠とも呼ばれています。

透明度が高いため、CTDは50m以上の深さまで見ることができます。 水中分光照度計・輝度計による観測風景

植物プランクトン以外の生物や有機物濃度も低いため、海は青く澄んで深くまで見通せます。この海水の光学特性を調べるために、水中の波長別の光を測定する機械(水中分校照度・輝度計)による観測を行いました。

空と雲

観測は昼夜に亘って行われ、24時間連続して作業していることも珍しくありません。疲れた体を青い空と雲が癒してくれます。

月食

12月10には月食が観察されました。

ホノルル入港

長い航海もおわりです。虹を潜って白鳳丸はホノルルに入港しました。

オアフ島が見えてきました 虹を潜って入港 アロハタワーの横に接岸 ワイキキビーチ

Group photo off Oahu Island, HI (Dec 22, 2011)