図. 黒潮内側(緑)、流軸(赤)、外側(青)における動物プランクトン個体数密度(ZP)、生物量(ZB) 、生産速度(ZP)およびタンパク質酵素活性(AARS:成長の指標)の地点間変動。網掛けは、過去に報告された値の範囲を指す。地点によるばらつきはあるものの、黒潮流軸~外側が黒潮内側に比べて極端に低くはないことが分かる。
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船舶搭載のドップラー流速計で測定した、水平流速の鉛直勾配。鉛直短波長の帯状構造を示す。長周期内部波の伝播を示唆。
Q ソルトフィンガーってなあに?
水温
深さ
東シナ海の一次生産を支える栄養塩起源
自由落下曳航式乱流計測装置で観測した乱流運動エネルギーの散逸率(乱流の強さに比例)。帯状の構造が初めて観測された。
海水には塩が溶け込んでいます。溶け込んでいる塩の量が多ければ多いほど海水は重くなります。海洋学では、海水1kgに塩などの溶存物が総じて何g溶けているかで塩分を定義します。また海水の温度が高ければ高い程海水は軽くなります。このため、同じ重さ(密度)で、異なる水温と塩分を持つ海水が存在することができます。同じ重さななので、高温で高塩分の海水を低温で低塩分の海水の上に静かに載せた場合、海水は動かないだろうと推測できます。ところが、実際はとても奇妙な海水の対流が発生します。この対流は、熱の分子拡散のスピードが、塩分のそれの100倍速いために発生します。分子拡散とは分子のブラウン運動に伴うゆっくりとした熱や物質の広がりを引き起こすプロセスです。右のアニメーションのように赤で示す高温で高塩分の海水が低温で低塩分の海水の上に乗っている場合を考えます。この高温高塩分水と低温低塩分水は最初同じ重さとします。何かの拍子に、例えば波によってこの二つの水の境界が揺らぎます。そうすると、できた凹凸によって、下に凸の分布を取る高温高塩分水は、周りの低温低塩分水に囲まれ、分子拡散によって熱が早く奪われますが、塩分の分子拡散は遅いのであまり塩の交換が発生しません。従って、冷やされた海水はどんどん重くなり、下へ下へと伸びていきます。反対に、上に凸の分布を取る低温低塩分水は、周りの高温高塩分水から熱を与えられますが、塩の分子拡散が遅いため塩はあまり与えられません。このため、どんどん軽くなり、上へ上へと伸びることになります。その結果、高温高塩分水と低温低塩分水が指状の構造を取り、高塩分水が下層へ運ばれ、反対に低塩分水が上に運ばれることになります。これが二重拡散対流によるソルトフィンガーです。
0m
多くの水産重要種の仔稚魚が生育する東シナ海において、植物プランクトンの生産性を支える栄養塩の起源を探ることは重要なテーマの1つです。様々な水塊がはこぶ硝酸塩の窒素・酸素同位体比組成(δ15N, δ18O)が起源水塊ごとに異なること、また、有光層で植物プランクトンが硝酸を取り込むときに一定の割合で変化するしくみを利用して、植物プランクトンが実際に利用している栄養塩の起源を明らかにしました。黒潮亜表層水が運ぶ栄養塩も、沖縄トラフや東シナ海大陸棚上の生物生産性に大きく寄与しています。
塩分
自動的に昇降するフロート(左写真)で測定した黒潮続流下900km(左図)にわたる水温と塩分のデータは、著しい水温と塩分の逆転挟み込み構造を捉えています(下図)。ここで1m以下で発生する乱流を直接測定したところ乱流はさほど強くありませんでした。ところが、微細な(1mm-1m)水温の変動が著しい大きいことが分かったのです。乱流が弱く微細な水温の変動が大きいことは、そこでソルトフィンガーのような二重拡散対流が活発であることを裏付けます。このことは、栄養塩のような物質が下層から表層へ供給されるのに、黒潮直下で二重拡散対流が重要であることを示唆します。
黒潮はその上流側で、沖縄トラフや、トカラ海峡といった浅瀬を流れます。この点は、北大西洋のガルフストリーム(メキシコ湾流)と大きく異なる点です。強い黒潮の流れが浅瀬に乗り上げ海底付近の海水をかき混ぜるのはもちろんですが、話はもっと複雑怪奇です。これまでにこの海域で実施された流れの観測は、この海域が、最も周期の長い低周波の内部波、しかも鉛直的な波長が非常に短い内部波が、卓越して観測されます。このような内部波による水平流速の鉛直的な勾配を計算すると左図のように、帯状の構造をとります。このような内部波に伴う流れは、鉛直的に急激に変化するため、波が砕けやすく、乱流混合を引き起こすことが期待できます。しかし、この海域で乱流混合の観測を行った例は極めて少なく、実際にどの程度の乱流混合が発生しているのか、わかっていませんでした、
参考文献
Evidence of enhanced double-diffusive convection below the main stream of the Kuroshio Extension, T. Nagai, R. Inoue, A. Tandon, H. Yamazaki), In J. Geophys. Res., volume 120, 2015.Observations of the Kuroshio Extension by an Autonomous Microstructure Float, T. Nagai, R. Inoue, A. Tandon, H. Yamazaki), In CLIVAR Exchanges., volume 20, 2016
海水混合のホットスポット:
トカラ海峡での流れの水平帯状構造の謎
地球観測衛星リモートセンシングによる生産力変動過程の解明
黒潮の表層では、海洋の光合成を担う植物プランクトンの成長に不可欠な栄養がほとんどありません。このため、表層付近で植物プランクトンの量は少なく、黒潮の海水は透明度が非常に高くなっています。
この様な状況は、黒潮がその北西部の恥を流れる、亜熱帯循環域で共通して言えることです。従って、亜熱帯域表層は、植物プランクトンが少ない海洋の砂漠と形容されます。この事は、人工衛星から観測できる植物プランクトン現存量に比例するクロロフィル量が、亜熱帯循環で非常に少ないことでも確認できます。
そこで本研究では、トカラ海峡近海において、乱流を船舶を航行させながら自由落下曳航式に観測し、その構造を水平・鉛直的高解像度に観測しました。その結果、低周波の内部波による流れの帯状構造と同様に、強い乱流が起こっている層も鉛直的に帯状構造を取ることが初めて明らかとなったのです(右図)。
しかしながら、一体なぜ低周波の内部波がこの海域に特に顕著なのかについては、謎が残されたままです。
この様な長周期の内部波は、主に風が作ることが知られています。しかしながら、近年の研究では、黒潮などの流れが蛇行する際に、風がなくても発生することが報告されています。また、これらの長周期の内部は原因によらず、黒潮などのフロント域の流れの水平回転運動に伴って、黒潮などのフロントの暖水側に閉じ込められ、そこで砕けやすくなることが指摘されています。このような周期の内部波が黒潮で砕ければ、そこで栄養塩を供給する一つのメカニズムとなります。本研究では、この可能性について探求しています。
何故貧栄養な黒潮は栄養塩ストリームと呼ばれる?
ところが、近年の研究は、黒潮が光の届かない亜表層では熱帯域から栄養塩を大量に運ぶ栄養塩ストリームであることを報告しています。光が届かないところで、黒潮の強くて深い流れがおよび、光合成に使い果たされずに、効率的に栄養塩を北へ運んでいます。また、何故か黒潮の流路に沿った亜表層で、同じ重さの海水に比べて、栄養塩が多く含まれることがわかりました。この事は、流路に沿った海域の何処かで鉛直てきな混合現象によって栄養塩が上向きに供給されることを示唆します。
この栄養塩ストリームとしての黒潮が、黒潮パラドクスを解明する一つの重要な鍵であるとSKEDは考えます。
これまでの観測から求めた硝酸塩濃度の気候値を同じ海水の重さの層で見た図。熱帯域から、黒潮の流路に沿って、濃度が高い。
黒潮が捕らえる海洋の内部を伝わる波の謎
人工衛星で観測された海面におけるクロロフィル量
高温高塩分水
海洋の内部波は、海洋内部を伝わる波です。サーフィンでおなじみの海面を伝わる波とは、その伝わり方の性質が全く異ります、海面の波では、波の峰と谷が伝わる方向に水が円を描きながら周期運動するのに対し、内部波では波の峰と谷が伝わる方向と直角の角度に水が動きます。左図では、真ん中の振動する物体が 成層した海中で引き起こす内部波の模式図です。内部波は、鉛直断面で見たとき生成点から四方に伝播し、その角度は、波の周期が長ければより水平的になります。周期が長い波は、水平的に水が左右に動くので、縦方向の流れの変化が大きくなり、波が内部で砕けやすくなります。砕けた波は、海水を混合します。このため、周期の長い内部波は、海水の混合に寄与すると考えられています。
For Public
低温低塩分水
自律型プロファイリングフロートが明らかにした黒潮続流下900kmにわたる水温と塩分構造
Multiscale routes to supply nutrients through the Kuroshio nutrient stream, In: Kuroshio Current: Physical, Biogeochemical and Ecosystem Dynamics (T. Nagai, S. Clayton and Y. Uchiyama), AGU-Wiley, accepted. (In Press)
Created by Takeyoshi Nagai
Kuroshio
Many fish species spawn around upstream Kuroshio regions, and migrate north along the Kuroshio
Kuroshio Extension
Kuroshio is one of the largest ocean current flowing from off Phillipiness Islands to southern coast of Japan
500m
With less nutrients, phyto-and zooplankton, which are foods for fish, must be insufficient
北太平洋における珪藻類の種多様性
Then, why so many fish species spawn around upstream Kuroshio region and utilize the nutrient poor Kuroshio?
黒潮は海の砂漠?
This scientific mystery “Kuroshio Paradox” is the theme, which our scientifc team has been tackled on.
Surface water of the Kuroshio is warm salty and nutrient poor
これまで長い間、黒潮は貧栄養でプランクトン量が少ないため、海の砂漠と考えられてきました。しかし、その黒潮流域では日本の水産資源を支える多くの回遊性魚介類が産卵・索餌することが知られています(黒潮パラドックス)。本研究において、東シナ海の広域観測と試料解析の結果から、黒潮の流れが速い海域やそれよりも外洋側でも沿岸域に匹敵する動物プランクトン現存量や生産力があることが分かりました。これは、黒潮流域には回遊性魚介類にとって十分な餌料が存在することを示しており、黒潮パラドックスを解く鍵の1つと考えられます。
Find links on the map to solve the Kuroshio conundrum
房総半島から東に流れる黒潮続流下150mより深い層では、水温と塩分のサンドイッチ構造が埋め尽くす!? −そこではミクロな現象ソルトフィンガーが栄養塩を混ぜる!!?