冷水渦・暖水渦による輸送
混合層内での乱流混合と植物プランクトンの光適応
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その結果、乱流混合を表層で考慮することで、フロントの冷水側で沈降流が、暖水側で湧昇流が生じることがわかりました(図2)。この乱流混合に伴うフロントを横切る循環は、従来から考慮されてきた海流が等密度面を横切ることで生じる循環と相乗して、冷水側での沈降流と暖水側での湧昇流を強めることも明らかになりました。したがって、海面付近の混合層での乱流混合に伴って、鉛直的な物質の輸送が促進されているのではないかと考えることができます。この結果は、以下の論文として、Journal of Geophysical Research Oceanに掲載されました。
謝辞:この研究は、科学研究費補助金若手A、我が国の漁業生産を支える黒潮生態系変動文科省プロジェクト(SKED)、MIT-HAYASHI-SEED FUNDに支援していただきました。   Nagai T., A. Tandon, H. Yamazaki, M. J. Doubell, S. Gallager, Direct Observations of Microscale Turbulence and thermohaline structure in the Kuroshio Front, J. Geophys. Res., 117, 2012. (doi:10.1029/2011JC00722)   Nagai T., A. Tandon, H. Yamazaki, M. J. Doubell, Evidence of enhanced turbulent dissipation in the frontogenetic Kuroshio Front thermocline, Geophys. Res. Lett., 36, 2009. (doi:10.1029/2009GL038832)
 これらの結果は以下の論文に掲載されています。謝辞:この研究は、Prof. GruberとProf. McWilliamsに授与されたNASAからの研究費で支援していただきました。 Takeyoshi Nagai, Amit Tandon, Nicolas Gruber, James C. McWilliams, Biological and physical impacts of ageostrophic frontal circulations driven by confluent flow and vertical mixing, Dynamics of Atmospheres and Oceans, 45, 229–251, 2008
謝辞:この研究は、Prof. Tandonに授与されたNSF(USA)による研究費から支援していただきました。 Nagai, T., A. Tandon, D. L. Rudnick, Two-dimensional ageostrophic secondary circulation at ocean fronts due to vertical mixing and large-scale deformation, Journal of Geophysical Research Ocean, 111, C09038, doi:10.1029/2005JC002964, 2006
図1 アゾロスフロントにおける蛍光光度。
そこで、本研究では、イリノイ大学のスーパーコンピューターとUCLAの海洋物理生態系モデルを用いて、どのようなメカニズムが炭素や栄養塩の沖合への輸送を引き起こすのかを詳しく調査しました。その結果、沿岸湧昇フロントが大きく蛇行しフィラメントが形成され(図1)、そのフィラメントがその沖合の端で冷水渦を生成すること、そしてその渦がロスビー波として西方へ伝播することで炭素や、栄養塩の沖合輸送が効果的に行われていることが明らかとなりました。沖合への輸送と同時に、沿岸湧昇した栄養塩の多くは、光合成に使われる前にフロントで沈降し、渦活動が活発なほどその沈降が大きくなることから、渦活動が結果的に沿岸湧昇域の生物生産を妨げる方向に働くという従来の定説とは異なる結果を得ました。これらの結果は、著名な科学雑誌、Nature Geoscienceに掲載され、また権威あるJournal of Gephysical Researchにも掲載されました。  Gruber N., Z. Lachkar, H. Frenzel, P. Marchesiello, M. Münnich, J. C. McWilliams, T. Nagai, G-K. Plattner, Eddy-induced reduction of biological production in eastern boundary upwelling systems, Nature, Geoscience, 4, 787-792, 2011   Nagai, T., N. Gruber, H. Frenzel, Z. Lachkar, J. C. McWilliams, G-K Plattner, Dominant Role of Eddies and Filaments in the Offshore Transport of Carbon and Nutrients in the California Current System, J. Gephys. Res., Accepted.
乱流摩擦によるフロントの鉛直流と一次生産
Nagai T., H. Yamazaki, H. Nagashima, L. H. Kantha, Field and numerical study of entrainment laws for surface mixed layer, In Deep-Sea Res. II, volume 52, 2005.
図2
 海洋フロントでは、異なる性質の水が接しており、そこで乱流混合も活発であるらしいことから、新しい性質の海水の生成が行われること、また、フロントで鉛直循環が活発であることから生成した海水のの沈降や、亜表層の海水の湧昇が発生することが知られています。この亜表層の海水は、栄養塩を多く含む場合表層付近の光が強い層、有光層に栄養塩を供給します。このため、フロントでは、生物生産が高いと考えられています。現場観測から直接そのような傾向を示した研究例も幾つかありますが、植物プランクトンが湧昇してきた高栄養塩水に応答する速度や表層付近の混合過程などの影響でその傾向はしばしば見えずらくなる傾向にあります。しかし、鉛直循環のうち沈降流の影響は、植物プランクトン現存量に比例するクロロフィル蛍光光度が、フロントの傾斜する躍層に沿って、しばしば舌状に下方向に伸びる分布として観測されます(図1)。
図3: 観測結果。色の図は(上)水温と(下)乱流の強さを表す。
Nagai T., H. Yamazaki, D. Kamykowski, A Lagrangian photoresponse model coupled with 2nd-order turbulence closure, Mar. Ecol. Prog. Ser., vol 265, 2003. 
図1
光の量
With Mixing
Without Mixing
光合成速度
 主要な海洋表層混合層の混合メカニズムは、風による混合です。風によって、海面に応力が与えられ、それに伴って海水が引きずられるため、その下で乱流渦が発生して、混合が活発になります。また、風は、表面の波が発生することによって、ラングミュア循環と呼ばれる鉛直循環を生じ、層内の一様性を維持する効果があります。また、海面が冷却を受けると、海面付近にできた周りよりも重たい海水は、下方向に沈み込み、また、沈み込んだ水を補うためにどこかで水が上向きに持ち上げられることになります。この重力不安定は、乱流渦を引き起こし、著しい海水の混合が発生し、混合層の厚さの成長を促進します。 本研究では、この混合層の厚さの変化を、層内で発生する乱流混合を直接測定しながら琵琶湖で観測し、観測結果をモデルで再現しました。
黒潮が引き起こす内部波
海洋表層混合層の成長
生物生産が活発であるため、有機物としての炭素が沿岸湧昇域の表層で多く生成されます。このため、気候変動に重要だと考えられている海洋の炭素循環にとても重要な役割を沿岸湧昇域が担っているのではと考えられています。とくに沿岸湧昇域で生成された有機物としての炭素が沖合にどのように輸送されるのかは大変重要な研究課題で、これまで活発な研究が行われてきました。問題は、沿岸湧昇で冷たい海水が沿岸域に湧き上がってくるため、そこで周りの海水とフロントを形成することです。そのフロントを境に、カリフォルニア海流が南向きに流れており、そのフロントを横切って炭素などの物質がどのように輸送されるのかがわかっていませんでした。
図2: 観測を実施した琵琶湖
 海洋表層混合層は、海洋表面近くの水温や塩分、密度が一様な層のことを指します。常に大気に接しており、この層の表面である海面で、大気と海洋の熱の交換が行われています。海水の方が熱容量が大気に比べて大きく、海洋の厚さ10mの著熱量が、全大気のそれと同等です。このため、海洋は、大気に比べて熱しにくく冷めにくい大気のラジエーターのような役割を果たし、気候を緩慢にするはたらきがあります。そのラジエーターは、常に大気と接する海洋表層混合層であり、このため層内の温度や塩分などが決定する混合プロセスは、大気との熱のやり取り、気候に大変重大な影響を及ぼします。 
 フライパンで、炒めものをするとき、皆さんは良く混ぜると思います。なぜかといえば、混ぜないと焦げてしまうからです。混ぜると、熱を比較的一様に炒めものに伝えることができ、”丁度良い具合”に美味しく仕上がるからでしょう。実は、海洋の表層で光合成する植物プランクトンにもこの混ぜる効果が、”丁度良い具合”に光合成を調整するはたらきをしていることが知られています。
図1: 混合層の混合過程
カリフォルニア沿岸湧昇域での渦による炭素と栄養塩の輸送
 カリフォルニア沿岸湧昇域は、世界でも大変有名な沿岸湧昇域です。多くの海洋研究所や海洋を研究する大学が米国西海岸にあるため、これまで沢山の研究が成されてきました。沿岸湧昇は、海盆の東岸域で夏季に北風が連吹するときに発生します。それは、北半球で北風に付随する海水の輸送が積分して西に向く性質によります。海盆東岸(カリフォルニア)には岸が存在するため、西向きの輸送を補うため、亜表層から冷たい海水が湧昇してきます。このため、カリフォルニア沿岸湧昇域は、夏でも沿岸域でSeabreezeと呼ばれる冷たい海風が吹き、涼しくて過ごし易い気候となります。一方、少し内陸に入れば、一転して、砂漠のようなドライで暑い気候となります。この沿岸湧昇に伴う亜表層から表層への海水の供給は、同時に亜表層の高栄養塩水を表層付近の有光層に輸送することになります。このため、沿岸湧昇域は生物生産が活発な海域となります。
図1: 混ぜる派?
海洋表層混合層の深さは、植物プランクトンの光合成に重要です。混合層が深過ぎればプランクトンは、光の少ない深層へ撹拌され、光合成量が減少してしまいます。混合層の浅化が春季ブルームの時期を決定していることが知られています。 一方植物プランクトンの光合成は、光の強さ(I)と光合成速度(P)の関係P-Iカーブとしてモデル化されています。しかし、この関数は、モデルなどで一定の関係として定義されていますが、実際には、強光下では左側のアニメのように、光合成速度が時間とともに減少する光適応現象が存在することが知られています。乱流混合によって混合層内を上下に撹拌される植物プランクトンの経験する光は、光が指数関数的に深さとともに減少することから、大きく時間とともに変化することになります。したがって、活発に乱流混合がある状態の混合層内の植物プランクトンのP-I曲線(右側アニメ)は、左のアニメのように減少しません。つまり、乱流混合は、光合成速度の減少を防ぐ効果があるのです。本研究では、この効果を1次元の混合層2方程式乱流モデルに植物プランクトンの個体モデルを組み込み、個体を追跡して計算しました。その結果、この効果が海水の透明度が低く、鉛直的な光の勾配が大きいときにより顕著に現れることを明らかにしました。
観測の結果、下記の琵琶湖北湖において、夜間の水面での冷却によって混合層が徐々に成長していく様子を連続的に捉えることができました。このとき同時に観測した乱流運動エネルギー散逸率は、混合層内で冷却に伴う浮力フラックスと同程度となっており、この混合層の成長と乱流混合が、水面の冷却によって起こっていることが裏付けられました。 この結果を再現し検証するために、2方程式乱流モデルを1次元の混合層モデルで用いて、混合層の成長を再現することに成功しました。
 風によって駆動される海洋の風成循環が、風によって加速され続けることなくある程度平衡状態を保つためには、何らかの海流が保有するエネルギーを散逸するプロセスが必要であることは、「黒潮が引き起こす内部波」で紹介しました。そこで述べたように、内部波が黒潮などの海流から何ら強制力無しで発生し、それらの内部波が砕けて乱流になれば、「黒潮が引き起こす内部波」は風成循環の平衡状態を保つ重要なプロセスとなります。それに限らず、海洋の中層から深層で風成循環のエネルギーを乱流などの小さなスケールに散逸している主要なプロセスは内部波です。内部波は、潮汐や風によって主に引き起こされ、それらはフロント域の海流に捕捉され、砕波し易くなることが知られています。しかし、フロント域では内部波が海流に再び吸収されることも知られており、はたして、海流近傍で内部波が、海流のもつエネルギーを散逸させるのか、それとも、再分配しているだけなのかは未だ不明な点が残されています(図1)。
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東京海洋大学
Webpage of Takeyoshi Nagai
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 数値実験で黒潮の流れを1kmの解像度で再現し、風や冷却を海面で与えない場合に内部波が黒潮から生じるのかを調べました。その結果、何の強制力を与えずとも、フロントは不安定を生じ蛇行し、その蛇行が大きくなるときに低周波で振幅の大きい内部波が発生することがわかりました。この結果は、権威あるJournal of Physical Oceanographyに掲載が決定しました。謝辞:この研究は、科学研究費補助金若手A、我が国の漁業生産を支える黒潮生態系変動文科省プロジェクト(SKED)、MIT-HAYASHI-SEED FUNDに支援していただきました。 Nagai, T., A. Tandon, E. Kunze, A. Mahadevan, Spontaneous generation of near-inertial waves by the Kuroshio Front, Journal of Physical Oceanography, Accepted
 コヒーカップのコーヒーに息を吹きかけて冷ますとき、中のコーヒーは回転して流れます。このとき、コーヒーは吹きかけられた空気の応力によって、ひきずられます。コーヒーカップが丸いので、このような回転する循環が生じていることは容易に理解できます。F=Maで大凡運動が記述できるとし、息を吹き続けて一定のFを与えつづければ、加速度aも一定となり、回転する流れはどんどん速くなるはずです。でも息を吹き続けて応力を与え続けても、回転する流れはある一定の速さ以上には速くなりません。これは、コーヒの流れがカップの壁面や底との摩擦によって、その運動が妨げられるからです。
海洋フロント
 海洋の風成循環も、海上風によって海面が引きづられて生じるので、一見コーヒーカップの例と類似した循環が生じます。例えば、北太平洋亜熱帯域では、西にユーラシア、東にアメリカ大陸があるため、その海域を時計回りに回転させるような風が吹いており、実際の北太平洋亜熱帯域の海水循環は時計回りに回転しています。 これまでの研究で、風がこの海洋風成循環を駆動する仕事率が全球で積分して、1Tワット程度であると見積もられています。海洋風成循環もコーヒーカップの流れと同様に加速し続けられているわけではないので、何らかの摩擦がはたらき、風成循環をある程度一定に保っている筈です。
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黒潮直下で起こる二重拡散対流
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 この海洋の壁面や底面境界での摩擦現象についてはこれまでの研究で見積もられており、例えば海底での直接的な摩擦による仕事率は、0.1Tワット程度であると言われています(図1)。また、海底に起伏がある場合、そこを海流が通れば、山岳波(lee wave)と呼ばれる波が生じます。これについては、近年の研究で0.2Tワット程度の仕事率であると見積もられています。したがって、今のところ、1Tワットの風から海洋風成循環へのエネルギーの注入率に対して、流れを一定に保つ減衰メカニズムが明らかとなっていません。
研究
学部生・院生大募集
黒潮は、巨大な海流です。黒潮流軸の海面での流速は2m毎秒を超え、その流速は深さとともに徐々に弱くなっています。このため、黒潮は縦方向に大きな流速の勾配をもっています。流速に勾配があれば無い場合に比べて渦巻き状の流れが生じ易くなるのは想像に容易いでしょう。しかしながら、この大きな縦の流速の勾配は、常に大きな海水密度の縦方向の勾配を伴っています。密度の勾配は、海水が海面付近で軽く、深くなるほど重いという成層構造を意味します。したがって、この大きな密度の鉛直勾配は、乱流の渦巻きが縦方向に生成され重たい海水を持ち上げ、軽い海水を押し下げる運動を妨げるため、海流自体の流速の鉛直勾配は、乱流を引き起こさないと考えられてきました。
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論文
海洋表層混合層
授業
黒潮における乱流混合
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 最近、そのメカニズムの一つの候補として、海流自体から内部波が生じてそれがエネルギーを風成循環から乱流混合へと移しているのではないかという仮説が提唱され始めました。私も黒潮での観測を繰り返すうち、黒潮フロントには大凡常に、内部波によると考え得る帯状の流速構造が見られることを発見し(図2)、その仮説の検証を試みてきました。
文献
乱流摩擦が引き起こすフロントの鉛直流
 しかしながら、黒潮フロントを横断して乱流を観測すると、流軸直下の流速勾配の大きな箇所で頻繁に乱流が周りよりも100倍程度大きくなることを発見しました(図2)。一度だけでなく繰り返し何度も観測をした結果、平均して黒潮流軸直下の乱流の強さは、フロントから離れた海域の躍層内の乱流の強さに比べて、10倍程度大きいことがわかりました。その理由については、様々な原因が考えられます。例えば、海流のスケールよりも小さなスケールの流れ1-10km程度のスケールが発生し、それが直接乱流に砕けるという説。あるいは、フロントから発生した低周波の内部波や風が生成した低周波の内部波がフロントの流れの水平・鉛直勾配のために捕えられ、そこで砕波するという説、を挙げることができます。一体なぜ、黒潮の直下の躍層で乱流が強いのでしょうか。
Tokyo University of Marine Science and Technology
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図2: 点線はフロント。破線はセカンダリーフロー
海面付近でも、黒潮で乱流が強くなるメカニズムが存在します。海上風が黒潮の流れと同じ方向に吹くとき、エクマン輸送は北半球で風向きの直角右90度に起こるため、常に冷たく重い水を暖かく軽い水の上に覆い被せ様とします。このため、この様な風が吹くとき、フロントの表層で著しく強い乱流混合が発生します。2009年にJAMSTEC「なつしま」で実施した観測でもこの現象が観測されました。この現象は、海面付近で海流の運動を妨げるため、前述の風成循環のエネルギー収支に寄与している可能性がありますが詳細なその程度は未だわかっていません。  
 海洋のフロント域では、フロントを境にして異なる性質の海水が分布しています。その性質の違いが、フロントで海水密度を含むとき、フロントは多くの場合、フロントに沿う方向に流れを伴います。この流れは大凡地衡流バランスしています。地衡流バランスは、圧力の水平勾配に伴う力と、地球自転に伴う見かけの力コリオリの力が釣り合った状態です。しかし、地衡流バランスしている真っ直ぐな流れは、若干の流れの変動に対して安定ではなく、それらの変動は成長し、数10-100kmのフロントの或いは海流の蛇行を生じます。この蛇行が大きくなり、ちぎれた場合、暖水渦や冷水渦がフロントから放出されます。
軽い水
乱流摩擦によるフロントの 鉛直流と一次生産
「乱流摩擦によるフロントの鉛直流」のところで述べたようにフロント域で乱流混合・摩擦がある場合、地衡流バランスを乱すわけですから理論的に鉛直循環が生じることになります。Nagai et al. 2006は、そのような循環が冷水側で沈降流、暖水側で湧昇流を生じさせることを明らかにしました。このような鉛直循環は、果たしてフロント域の一次生産にどのような影響を及ぼし得るのでしょうか。  このことを調べるために、この研究では、2次元のSemigeostrophic Modelと呼ばれる方程式を用い、そこに乱流混合・摩擦の影響と地衡流が等密度を横切る影響を考慮して、鉛直流とそれに伴うフロントの構造の変化、および栄養塩と植物プランクトンの挙動をシミュレーションしました。
略歴
 この様にフロント或いはそれに伴う海流が蛇行する際には、地衡流はフロントの傾斜する海水の等密度面を横切って流れる成分が生じることになります。また、フロント周辺の渦が同様に傾斜する海水の等密度面を横切る流れをつくるとき、フロントは変形し、フロントを横切る方向の密度の勾配が大きくなったり小さくなったりします。このとき、元の地衡流バランスが崩れてしまいます。フロントは、これをどうにか地衡流バランスにもどそうとするため、フロントで鉛直流やフロントを横切る地衡流でない流れが生じます。このように海流は元来安定な流れではないため、フロント周辺では常に鉛直方向の循環が起こらざるを得ません。かなり古くから、このようなメカニズムで生じる鉛直流を見積もるため、準地衡流ω方程式という式が用いられてきました。この式では、未知数が鉛直流で、右辺に密度の3次元観測から得られる既知の強制:地衡流がどの程度等密度面を横切るのかを表す率を置きます。 しかし、この従来のω方程式には、乱流混合に伴う摩擦や混合の効果が含まれていません。摩擦も地衡流バランスを乱すので、強制として寄与するはずです。そこで我々は、従来のω方程式に乱流混合・摩擦の効果を加味して、その鉛直流への影響を調査しました。
人工衛星海面高度と準地衡流モデルを用いた海洋3次元内部構造の推定
シミュレーションの結果、フロントに地衡流が等密度を横切る成分と、乱流混合・摩擦の両方を強制として与えた場合、フロントの暖水側で上昇流によって湧昇した高栄養塩水に伴って一次生産が促進されることが明らかになりました(図2)。一方地衡流が等密度を横切る成分のみを強制として与えた場合には、フロントの水平密度勾配が急速に増加し、数値的に移流項が正しく表現できないほど急勾配になり、計算が破綻してしまいました。 このことから、地衡流が等密度を横切る成分と乱流混合・摩擦が同時にはたらくことで、フロントでの栄養塩供給と一次生産の促進に相乗的に寄与していることがわかりました。
漁場推定
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黒潮で活発化する乱流混合
黒潮域における渦による 栄養塩の輸送
乱流混合
重い水
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